十勝の大自然からインスピレーションを受けてつくられた庭は、自生種と園芸種の草花が美しく調和し、季節ごとに繊細な表情を見せます。イギリス・ガーデンデザイナーズ協会The Society of Garden Designers主催SGD Awards 2012でGrand Award(大賞)とInternational Award(国際賞)を受賞しました。
Concept
コンセプト
メドウガーデンは、十勝の大自然からインスピレーションを受けたガーデンデザイナー、ダン・ピアソンによってデザインされた。ナチュラリスティック スタイル(自然主義の庭)と呼ばれる、自然植生をモデルとした植栽デザイン手法は、植物を熟知するプランツマンとして名高いダンならではのもので、日本での初めての試みとなった。
メドウガーデンの自然主義のスタイルは、森から林縁、そして草原へとつづく自然の風景を捉え、その雰囲気を庭に取り入れることを目的としている。森や草原で見られる自然の植物群落は、何千年にもわたって自然淘汰をくり返し、棲み分けを図りながら、次から次へと季節ごとにさまざまな植物が調和して生きるよう進化してきた。このような自然環境を入念に研究して植生を理解しながら、メドウガーデンの植栽デザインはより庭の雰囲気を高めてシーズンを長く楽しむための植物を積極的に取り入れるよう発展していった。植物は、土地の自生種とその系統を汲む園芸種、十勝と似た気候の北米の植物から選ばれており、北海道に初めて導入されたものも多い。
ひとつの植生から次の植生へと連なり合って咲いていく。自然がそうあるように、植物選びは第一に植物同士の相性を、第二にそれぞれの植物の季節ごとの変化を重視し、それぞれの植物の特性を把握して理想的なバランスとなるよう組み合わせている。 自然の生態系に倣ってつくられたメドウガーデンは、長い時間をかけて独自の植生のリズムとバランスを築いて進化していくのである。
Design & Construction Process
デザインプロセス
メドウガーデンはアースガーデンから連なるランドフォーム(地形)によって抱かれるように造られている。この丘には灌木が密に植えられ、山々から吹く風を通して和らげると共に、遠くに望む丘陵地帯と庭の風景をつなぐ役割を果たす。庭の中央の枕木園路は地形図の等高線のように表され、小道は草原の中のけもの道をイメージして設計された。
©Dan Pearson Studio
庭は「Woodland 森」「Woodland Glade 林縁」「Meadow 草原」の3つのエリアに分かれ、それらの環境に適した植物を選んでいる。植物はそれぞれの特性を生かして17の植栽パターンによって組み合わされ、その配合を保ちながらも人がコントロールしすぎないようにコンピューターの乱数表によってランダムに植物が配置されるようデザインされた。
Woodland 森
日本に自生する樹木の中から観賞価値が高く美しい木々を植栽。シャラノキやカツラなどが森の高木層となり、中間にはエゾアジサイやタラノキなどが中低木層として育つ。自然の森と同じように、このエリアでは日陰を好む植物たちが生き生きと育っている。
ウッドランドの色彩計画は、緑を基調として白や青、淡い黄色が混じり合う。森の雰囲気に通ずる自生種とその系統を汲む園芸種を取り入れるほか、十勝と似た気候の北米の植物を組み合わせている。点在するシルバーリーフの植物が木漏れ日に映えて美しく調和する。
Woodland Glade 林縁
林縁は森の端の部分にあたり、徐々に空間が開けて木々の間から林床に光が入る場所である。このエリアは木々の密生す森の奥より明るく開けた雰囲気をつくり、その環境に適した植物を選んでいる。アヤメやタデ、ムラサキツユクサなどの林縁に自生する植物の仲間がここでは見られる。
ウッドランド グレイドの色彩計画は、緑と白が基調となる森の色合いにグラデーションをつけながら、庭のさらに明るいエリアに見られる紫や濃いピンク、赤などの鮮やかな色彩を招き入れ、隣り合うエリアとつながりを持たせている。
Meadow 草原
木々の繁るエリアからさらに明るい空間へと抜けて、庭は遠くに望む山々へと風景がつながる。「メドウ」と呼ぶこの草原のエリアには日向を好む植物が育つ。大胆にそよぐグラスは遠景にある丘陵地帯の草原とつながり、山からの風を感じさせる。メドウの植栽は、シーズンを通して色、形、質感が季節ごとに変化していくようデザインされている。色彩は陽の光を燦々と浴びるイメージでより強く鮮やかであり、紫、赤、ピンク、茶色、緑、金色、黄色、白などさまざまな色のパレットが広がる。
2008年5月、メドウガーデンの植栽工事がはじまる。植栽地全体を耕耘して石を取り除き、植栽の準備を整える。
植栽開始当初のメドウガーデン。まだ黒土が目立つ。ところどころに見える植栽のパッチは試験植栽。植栽工事は1年間の生育試験を経て行われた。メドウガーデンは80種35,000株の宿根草植栽からスタートした。
メドウガーデンの植栽開始からまもなくして、ダンが来日し、ヘッドガーデナーの新谷みどりと初めてのミーティング。森の中で林床の植生を前に、メドウガーデンのコンセプト、植栽デザインの意図を説明するダン。
植栽工事の進むメドウガーデンで試験植栽の生育状況をひとつひとつ確認しながら話し合う。生育不良の植物変更やガーデンのコンセプトに添った管理方法など細かな打ち合わせが続く。
2008年6月、植栽したエリアから仕上げとして灌水作業とマルチング作業を進める。マルチング材は麦棹(バッカン)堆肥を使用し、株の周りに5cm厚で敷きつめていく。
2008年8月、植栽を終えて約1ヶ月後のメドウガーデン。環境に適した植物たちは短い夏の間にぐんぐんと生長し、開花を始める。
2011年7月、4年目のシーズンを迎えたメドウガーデン。毎年ダンとのミーティングを重ねて、ひとつひとつの植物のコンディションを一緒に見ながら、植栽のボリュームや色彩計画の改善、新たな植物の導入などについて話し合う。
Maintenance
メンテナンス
植物の芽だしが美しい春に新たな宿根草の植栽や株分け、夏の乾燥から株元を守るマルチングなどの庭仕事が始まる。夏は開花の終わった植物の切り戻しを一部行うが、メドウガーデンではあるがままの姿で切り戻しをせずにシードヘッド(種の結実)を楽しむ植物も多い。個性豊かなシードヘッドと草紅葉が一面に広がる秋は、こぼれ種で増やすものとグラス類以外のすべての宿根草を株元まで切り戻してマルチングを施す。植物たちに冬が訪れることを知らせ、エネルギーを蓄えて休眠に入るように促しながら冬支度を終える。
メドウガーデンの庭仕事で最も重要なことは、植生バランスの調整である。自然に根ざした庭といえども、自然任せでは美しい景観を持つ庭にはならない。大型の宿根草の下に小型の宿根草が育ち、さらにその合間を縫うように地被植物が広がる、など自然に見られる植生をお手本に生育環境を整え、広がりや立体的なバランスなど美しい棲み分けのイメージを描いて追加植栽や間引き、こぼれ種の調整などを細やかに行う。
こぼれ種でできたコロニーは未来のメドウガーデンの姿につながる。比較的短命な植物は世代交代が円滑に行われるように、次世代となる小さな芽をバランス良く残して育てる。3年後、5年後、7年後の庭の姿を思い描きながら、植生バランスを整え、植物の力が最大限に生きる美しい風景を目指して育て続けている。