デザイン:中谷耿一郎
土と植物以外で唯一この敷地に存在する素材ともいえる麦飯石(ばくはんせき、花こう斑岩の一種)のみを使った寡黙な造形。麦飯石のもつ柔らかな表情がシンプルな構成の庭に温かさや空間としての豊かさをあたえています。端部が地面に消えてゆく低い石積みと石畳からなるランドスケープは、作者がしばしば取り組んでいるテーマです。
麦飯を集めたような粒状結晶があることに由来する麦飯石は、多孔質で雑菌や臭いの吸着性が高く、水や空気を浄化する作用を持ちます。石質は柔らかく、地中から掘り出されるとその吸水性ゆえに比較的早く風化が進むといわれますが、日光や風雨にさらされて経年変化を遂げる様子を観察する楽しみもあります。
背景となる林床の草花は、ヤマブキショウマやカラマツソウなどの自生種を植栽して育てています。石に座れば小川の音や鳥のさえずりが聞こえ、木洩れ日が映し出す模様の変化を目にできます。庭に身をゆだねると、周囲の自然と一体になったかのようです。中谷氏は「時間の経過とともに辺りの雑草が庭に押し寄せ、『祝福』してくれるようになれば」と期待しています。
中谷耿一郎
1946年和歌山県生まれ。山梨県の八ヶ岳の麓で暮らす造園家・ランドスケープデザイナー。自然の中で生活するための環境づくりや景観設計を手掛ける。
2003年度グッド・デザイン賞受賞。
著書に「木洩れ日の庭で」(TOTO出版)がある。